オークションと「トキ消費」——参加型のライブ体験が顧客エンゲージメントを高める理由
目次
- 消費の進化:モノ消費・コト消費・トキ消費とは
- 「トキ消費」の3つの特徴
- なぜオークションは「トキ消費」と相性が良いのか
- 実証実験に見るライブオークションの可能性
- 参加型オークションを設計する視点
- 避けたい設計:煽りに頼らない参加体験を
- よくある質問
- まとめ:オークションは「参加」を形にする仕組みである
1. 消費の進化:モノ消費・コト消費・トキ消費とは
博報堂生活総合研究所は、2017年から「トキ消費」という消費潮流を提唱しています。これは、1970〜80年代の「モノ消費」(所有そのものに価値を見出す)、1990年代後半から広がった「コト消費」(体験に価値を見出す)に続く、第三の消費スタイルとして位置づけられています。
| ステージ | 価値の中心 | 具体例 |
|---|---|---|
| モノ消費 | 商品の所有 | ブランド品、高級車 |
| コト消費 | 商品を通じた体験 | 旅行、グルメ、コンサート |
| トキ消費 | 「今ここ」への参加と共有 | ハロウィーンの盛り上がり、クラウドファンディングのムーブメント |
同研究所は、モノが行き渡り希少性による訴求が難しくなったことが、モノ消費からコト消費への移行の背景にあると分析しています。そしてコト消費の中でも、「同じ体験を何度でも味わえるもの」と、「その時、その場所でしか味わえないもの」という違いに着目し、後者を「トキ消費」として整理しています。
2. 「トキ消費」の3つの特徴
博報堂生活総合研究所は、トキ消費をコト消費と比較して次の3つの特徴で説明しています。
特徴1:非再現性
その時間、その場所を逃すと、同じ盛り上がりや感動を二度と得られないという特徴です。何度でも同じ体験ができるコト消費とは異なり、「今しかない」という感覚が価値の中心になります。
特徴2:参加性
単なる来場者や傍観者としてではなく、主体的に参加することで消費が成立するという特徴です。同じ趣味嗜好を持つ人たちが集まり、共に場を盛り上げるという行為そのものが価値になります。
特徴3:貢献性
集まりやイベントに対して、自分がその盛り上がりに貢献しているという実感を持てることです。「見ているだけ」ではなく、「自分もその場を作る一員である」という感覚が、体験の価値を高めます。
同研究所の調査では、こうした行動は特に若年層で顕著に見られる傾向があるとされています。
3. なぜオークションは「トキ消費」と相性が良いのか
オークションという仕組みを、この3つの特徴に照らして見ると、多くの点で重なりが見えてきます。
非再現性との重なり
オークションには明確な終了時刻があり、「この瞬間を逃すと二度と入札できない」という時間的な制約があります。この構造は、トキ消費の「非再現性」と自然に結びつきます。
参加性との重なり
オークションでは、消費者は商品を「見る」だけでなく、価格を自ら決め、入札という行動を通じて能動的に参加します。カートに入れて決済するだけの一般的なECとは異なり、参加すること自体が体験の一部になっています。
貢献性との重なり
入札の積み重ねが最終的な落札価格を形作ります。自分の入札が、その商品の「今の相場」を作る一因になっているという実感は、貢献性の感覚に通じるものがあります。
このように、オークションはもともと「トキ消費」的な性質を内在的に備えた仕組みだと考えられます。
4. 実証実験に見るライブオークションの可能性
トキ消費とオークションの親和性は、実際の実証実験でも検証されています。
スポーツ庁が推進する「スポーツ産業の成長促進事業」の一環として、アビームコンサルティングはJリーグクラブなどと連携し、試合後や合宿中にライブ映像配信と連動したオークションを実施する実証を重ねてきました。選手のサイン入りユニフォームや練習で使用した用具などを、ライブ配信を見ながらリアルタイムで入札できる形式です。
アビームコンサルティングは、こうした取り組みを通じて見えてきたファンの消費行動を「エンタメ型消費」として整理しています。商品そのものよりも参加体験に価値を感じる、リアルタイムの盛り上がりが購買を後押しする、ファン同士の共感がその場を作るといった特徴が、ライブオークションという形式の中で確認されているとされています。
この知見は、スポーツ業界に限らず、ファンを抱えるさまざまな事業に応用できる可能性があります。
5. 参加型オークションを設計する視点
「トキ消費」の3つの特徴を踏まえると、参加型のオークション体験を設計する上で、以下のような視点が有効だと考えられます。
視点1:「今しかない」を分かりやすく伝える(非再現性)
残り時間の表示、ライブ配信との連動、期間限定の出品といった要素は、「この機会を逃すと得られない」という感覚を、誇張せず事実に基づいて伝える工夫になります。
視点2:「見る」から「参加する」への導線を作る(参加性)
入札という行為だけでなく、コメント機能やリアルタイムの反応表示など、参加していることを実感できる要素を組み込むことで、単なる購入以上の体験を提供できます。
視点3:「自分も場を作っている」実感を持たせる(貢献性)
入札件数やウォッチ数など、実際のデータに基づいた情報を分かりやすく共有することで、参加者一人ひとりが「この盛り上がりの一部である」と感じられる設計を目指すことができます。
6. 避けたい設計:煽りに頼らない参加体験を
参加型の体験を設計する際、注意しておきたい点もあります。
「非再現性」を伝えることと、根拠のない緊急性を煽ることは別物です。実際の残り時間や在庫状況を分かりやすく伝えることは有効ですが、事実と異なる演出で焦らせることは避けるべきです。
また、「競り負けた悔しさをバネに、次はリベンジしてもらう」といった発想で、対抗心や過去の敗北感を意図的に刺激する設計は、短期的な参加意欲の向上につながるように見えても、ユーザーの冷静な判断を妨げ、長期的な信頼を損なうリスクがあります。「参加性」や「貢献性」は、ユーザーが自発的に感じるものであり、事業者が煽って作り出すものではないという点を意識することが大切です。
トキ消費が本来持つ価値は、「その場を一緒に作っている」という前向きな実感にあります。ユーザーの心理的な弱みに付け込むのではなく、事実に基づいた分かりやすい情報提供と、参加しやすい設計を積み重ねることが、健全な形での「トキ消費」の実現につながります。
7. よくある質問
Q1. 「トキ消費」は、どんな商材のオークションにも応用できますか?
A. すべての商材に同じ効果があるとは限りませんが、期間限定性やライブ性を演出しやすい商材(スポーツ関連グッズ、イベント連動商品など)は特に相性が良いと考えられます。
Q2. ライブ配信と連動したオークションを始めるには、何が必要ですか?
A. 配信環境の整備に加えて、リアルタイムで入札状況を反映できるシステムが必要です。まずは小規模な実証から始めることをおすすめします。
Q3. 「非再現性」を伝えることと、誇張表現の違いはどこにありますか?
A. 実際の残り時間や在庫状況など、事実に基づいた情報を分かりやすく伝えることは問題ありません。事実と異なる緊急性を演出することは避けるべきです。
Q4. 「参加性」を高める機能には、具体的にどのようなものがありますか?
A. コメント機能、リアルタイムの入札状況表示、ウォッチ数の共有などが考えられます。ユーザーが「見ているだけ」にならない工夫が重要です。
Q5. トキ消費を意識した設計は、若い世代以外にも効果がありますか?
A. 博報堂生活総研の調査では若年層で顕著な傾向が見られるとされていますが、参加性や貢献性を重視する設計は、世代を問わず利用体験の向上につながる可能性があります。
Q6. 「リベンジ消費」のような煽りを使わずに、参加意欲を高めるにはどうすればよいですか?
A. 事実に基づいた情報提供と、参加していることを実感できる機能の充実が基本です。焦らせるのではなく、参加すること自体の楽しさを伝える設計を心がけることをおすすめします。
8. まとめ:オークションは「参加」を形にする仕組みである
この記事のポイント
1. 消費は「モノ」「コト」「トキ」へと進化してきた 博報堂生活総合研究所が2017年から提唱する「トキ消費」は、参加と共有そのものに価値を見出す消費スタイルです。
2. トキ消費には「非再現性」「参加性」「貢献性」という3つの特徴がある これらは、オークションという仕組みが本来備えている性質と重なります。
3. 実証実験でもオークションとライブ体験の親和性が確認されている スポーツ庁とアビームコンサルティングの取り組みでは、参加体験を重視する「エンタメ型消費」の傾向が見られています。
4. 参加型オークションは3つの視点で設計できる 非再現性を事実に基づいて伝える、参加を実感できる導線を作る、貢献性を可視化する——これらが実践のポイントです。
5. 煽りに頼らない設計が、長期的な信頼につながる 対抗心や敗北感を意図的に刺激するのではなく、前向きな参加実感を大切にすることが重要です。
オークションは、単に「モノを売買する場」ではなく、「その場に参加し、共に盛り上げる」という体験を提供できる仕組みです。事実に基づいた誠実な設計を積み重ねることで、健全な形での「トキ消費」を実現できると考えられます。